カラン。扉についたベルを鳴らせば、そこはもう別の世界。
控えめな照明に、無駄な音が一切排除された空間。足音が空間いっぱいに響き渡る。
どこか神聖な空気が漂うここには、古めかしくて、だけど素敵なものがたくさん。
この不思議な国に迷い込んだような気分が、私はたまらなく好きだ。


「いらっしゃい、ミノリ。
 今日は買い物ですか? それとも……」


まあ本当は、この不思議の国の王子様が一番のお目当てなんだけれど。
今日も優しくかっこよく笑うミステル君は、とびっきり素敵。


「こんにちは、ミステル君。ごめんなさい、今日はお買い物じゃないの。
 でも差し入れを持ってきたから、許してね」


カラコロ。喋る度に、口の中から軽やかな音がした。
甘酸っぱい味がするそれが、口の中を転がって出す音。
体の中に響く楽しげなその音を聞きながらポケットを漁って、お目当ての物を探す。


「あった! これ、フルーツがたくさんあったから、ちょっと作ってみたんだ。
 ミステル君にも是非もらって欲しくて」


そう言って私はミステル君に、今朝作ったばかりのフルーツキャンディを差し出した。
レモン、オレンジ、モモ、ブドウ、イチゴ。カラフルなキャンディを更にカラフルな紙で包んだそれは、我ながら可愛く出来たと思う。


「ボクは差し入れなどなくても、あなたが会いに来てくださるだけで充分なのですが……。
 ですが折角ですし、お言葉に甘えさせていただきましょう」
「本当? 嬉しい! じゃあね、色々あるんだけど……」


ミステル君の言葉に二つの意味でウキウキしながら、他の味のものも探そうとポケットに手を伸ばした。
けれどその前に腕ごと捕まれて、動きを止める。
今持ってるやつで良かったのかな? なんて考えたけど、すぐにそれがマヌケな考えだったって分かった。
目を閉じる間もなくキスをされて。慌てて目を閉じる頃には柔らかくてざらざらしたものが口の中にあって、それがミステル君の舌だって分かった頃には私のキャンディは彼に盗られていた。



「ごちそう様です」



カラコロ。爽やかに微笑むミステル君の口元からは、涼やかで甘いあの音がした。
私の中からあの音は鳴らなくなってしまった。代わりに心臓のバクバクという音が、体中を占領している。










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今日もミステル君がキス魔で楽しい!


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