「あなたって、時々とっても子供っぽいよね」



ふっと、そんな事を、思った。
彼は落ち着いていて、社交辞令が上手くて、自分の商売に関する知識には絶対の自信があって。
最初に出会った時私は、随分大人っぽい人だなって、思った。


「どうしたんですか、いきなり」
「なんとなーく、今ね。思ったの」


けれど彼と付き合えば付き合うほど、分かった。
嫌いなものにはとことん辛辣で、野菜も嫌いだし、自分の物は人に渡したくないっていう独占欲とか。


「なんだかあまり面白くない気分です。二度とそう思えないように、してさしあげましょうか?」


ふわりと体が浮く。私はあっという間にソファに倒されて、彼はにこにこと笑いながら私の上。
ほうらね、そうやってすぐムキになっちゃうところとかだよ。
分かってないんだなあ、って思って、私はおかしくなって笑ってしまった。


「……なんだか最近のあなたは、時々姉さんに似ています」
「そう? 嬉しいな。だってそれって、あなたに似てるってことでしょ。
 ねえ、夫婦って段々似てくるんだって」
「ボクは嬉しくありません。最近のあなたには、かないませんからね」
「いいでしょ〜、だって前は私の方があなたにかなわなかったもん」


前は、私をからかうのが楽しいらしい彼に随分と振り回されていた。
けれど人間はどんなことにも慣れてしまうらしい。振り回されるのも嬉しかったので、少し勿体ないなあとも思う。
それでも、そんなに長い間一緒にいれているという事の方が嬉しくて。

そうそう、そんなところも今となっては、子供っぽくて可愛いなあって。
人一倍大人なのに、どこか子供みたいな、あなた。
彼が本当に子供の頃はどんな子だったのだろう。子供、の部分だけな彼を想像してみる。
きっと野菜嫌いで、ワガママで、だけど。

「……あ」
「なんですか、また」
「ねえ、私ね、あなたの子供が欲しいなあ」
「……あなた、それをこの状況で言うんですか?」
「私、思ったことはすぐ言わないと気が済まないの。
 ねえ、いいでしょ。きっとすごく可愛いよ」

とびっきり可愛い。
見た目はどっちに似るのかなあ。私に似たら嬉しいけど、彼に似た方がきっと可愛い。
野菜嫌いで、ワガママで。だけど本当は素直で一途な、可愛い子。


「……あなたには、本当にかないません。今も……昔も、ですよ」


そう言って彼はため息を付きながら、私の耳元に顔を寄せる。
ミノリ、と、私を幸せにする三音が聞こえた。
それに応えるように私も、愛しい四文字を囁いた。










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いつまでも初々しい二人もいいけれど、夫婦として落ち着いた感じの二人もいいなあっていう


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