ライモンシティの観覧車に、好きな人と二人っきりで乗る。
それはあたしのちょっとした夢だった。



いつだったか忘れたけど、雑誌の遊園地の特集記事を見て、ベルと二人で言ってたんだ。
ベタすぎるって自分でも思うけど、でもあたしだって女の子なんだよ。
女の子は結局、ベタなくらいの事が好きなの。



なのに、あたしが人生初のライモンシティで、人生初の観覧車に乗った時、一緒に乗ることになったのはただの電波男!



しかも観覧車内でもまたいつもみたいに電波な事言い出すし。
いやまぁ、あいつがプラズマ団の王様ってのは本当の事だったけど。


とにかく、最悪だって思った。
別に初っ端から好きな人と乗れるなんて思ってた訳じゃないけど、せめて友達とか。
なんで初観覧車がよくわかんない奴と一緒なんだろうって。

そう、思ってた。けど、



「……トウコ?」



ふと名前を呼ばれて、我に返る。
あたしを呼ぶ声の主を振り返ると、不思議そうな顔であたしを見つめる、暗い色の、だけど透き通った瞳。


「なんだかぼーっとしてたみたいだけど大丈夫?」
「……ああうんごめん、なんだか考え事しちゃってた。ごめん」


いつの間にか、目の前の彼を無視してぼーっとしてたみたいだ。
誰かと一緒にいるのに、相手を無視してうわの空だなんて、普通に考えて最低すぎる。
なのに彼は、首をぶんぶんと横に振ってくれた。


「どんなことを考えてたんだい?」

……あたしが同じことされたら、間違いなく不機嫌になってたと思う。
でも彼は、楽しそうに言う。嫌味っぽい感じとか、怒ってる感じとかじゃ全然ない。
ニコニコしてて、単純にあたしの事が知りたいみたいな感じで。

まったく大人なんだか、純粋すぎるんだか。
そういうところが、なんかずるいなって思っちゃう。


「一番最初に、この観覧車に乗った時の事」
「最初に?」
「うん。Nは、あたしと乗ったのが最初だよね?」
「そうだよ。トウコは?」
「あたしは……」


何の躊躇もなくすぐ答えるNに嬉しくなりながらも、あたしはわざと言葉を濁した。
あたしのこういうところ、悪い意味でずるい気がする。

観覧車の窓から見える景色も、一緒に乗っている相手も、一番最初と今で何も変わってない。
一番変わったのは、きっとあたし。



「……好きな人、かな」
「えっ?」



あの時は最悪だと思ってたけど、結局今になって思えば、一番最初に一緒に乗った人は好きな人だった。
そして、今も一緒に、好きな人と乗っている。

あたしの小さな夢はとっくに叶ってたし、今もまた、叶っている。













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トウコちゃんはちょっとクールで素直になれない、でも本当は良い子な今時っ子。なイメージ。
Nは幸せになるべき!


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