「それじゃ、今日も頑張ってくるねー」 「……無理はしちゃ駄目デスよ」 「大丈夫だって!」 笑顔でいつも通りに、朝の仕事へとでかけようとする彼女。 だけど数ヶ月前までのような元気はなくて、正直今にも倒れそうだ。 心配だから、手伝うと言ったのに。気丈な彼女は首を横に振った。 それなのに、ほら、やっぱり。 扉に手を掛けた所で、へなへなとその場に座り込んでしまう。 それもそのはず。 彼女には今、新たな生命が宿っているのだ。 重たい体で牧場仕事などできるものか。 「ほら、だから言ったんデスよ! しばらくはワタシにまかせて、あなたはゆっくり休んでてください!」 「う〜……。だけど、ピエール。前に『運動は苦手』って言ってたじゃない。牧場仕事って、結構体力使うのよ?」 ああ、確かにそんな話もした気がする。というか実際そうなのだが。 でも、だけど。彼女は分かっていないのだろうか。 あなたが自分に、魔法をかけてくれる事を。 「チェルシー、でもワタシは、以前『修行で素手でガケを登らされた』と話しましたよね?」 「うん、覚えてる。……そういえば、運動苦手なのによくそんな事できたね?」 「だってその時は、一人前のグルメマンになるという、夢の為にがんばれましたから。 ……これって、どういう事か分かりマスか?」 「全然」 話の流れが分からないと小首を傾げる彼女。 分からないのなら、教えてあげましょう。 とびっきりの秘密を話す、子供のように。 「つまり、今だってチェルシーの事を想えば、どんな事だってできるって事デスよ。少しはワタシを頼ってもらえませんか?」 だって、あなたの事を愛しているから。 すると彼女は一瞬目を丸くして、それでも少し納得いかなそうだったけど。 だけどやがて、観念したように微笑んだ。 「……じゃあ、お願いしてもいい?」 ……その後結局彼一人では手が回らなくて、宿に滞在している牧場経営者志望の青年に手伝いを依頼することになるのは、別の話。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 身ごもったまま牧場仕事をする主人公を見て婿達に思うところがあって欲しいみたいな願望のアレ。 BACK |