「やった、またあたしの勝ちー!」 ライトパープルのポニーテールを揺らしながら、嬉しそうにガッツポーズを取るティン。 そこから少し離れた場所で、苦笑しているリタ。 そして二人から離れた場所で呑気におしるこを食べているフロー。 全員の服装はいつもと違い、きらびやかな晴れ着。ティンとリタの手には、羽子板。 更にリタの顔には、墨汁で書かれた丸やバツ。 それを見れば二人が何をしていたのか、すぐに分かるだろう。 そう、お正月の定番、羽根突き。 いくら男女の差があるとは言え、運動は苦手なリタと、運動神経は抜群のティン。 先程から二人は勝負をしていたようだが、ティンの顔には何も書かれていない。 そして今、またリタの顔に丸印が増えたのだった。 「ティン、強いねー。何回やっても負けちゃうし。まぁ、僕が運動苦手なせいでもあるけど……。 ……フローはやらないの?」 「私がそんな無駄に疲れる事する訳ないでしょ」 ずっと勝負を続けていたせいで少し息を切らせているリタの問いに、フローはあくまで平和におしるこを食べながらあっさり断る。 その容赦なさに「あはは、そうだよね……」と苦笑するリタ。 そしてティンの「次行くよー」という声に、フローの元を離れ定位置に戻るのだった。 かくしてまた再開された勝負。 今度はリタも中々頑張ってはいるものの、やはり後衛のリタと前衛のティンでは体力に差がある訳で。 リタはもう息も切れ切れだと言うのに、ティンはまだまだ余裕である。 しかしリタがまたもう一つ自分の顔にバツ印が増える事をぼんやりと感じとっていたその時。 彼が体力ギリギリで打ち返した羽。 羽の飛んでいった方に走って行くティン。 だが、突如彼女の体がぐらりと傾いた。 ティンが自分自身に何が起こったか理解する前に、彼女は地面に倒れ、また羽も地面へと落ちていったのだった。 「……はぁ〜、あそこで転ぶなんて……。やっぱり慣れない物なんて着るもんじゃないよね」 数分後、残念そうな顔をしながら、それでもリタに筆を手渡すティンの姿があった。 やはり着物と言う物は普段着慣れない物な上、動きにくいものである。 偶然、と言えば偶然なのだけど。 とりあえずは、リタの初勝利である。 が。 紳士なリタには、どうも女の子の顔に落書きをするという行為に抵抗があるよう。 筆をティンの頬に近付けては離す、を繰り返している。 それを見かねたフローがおしるこをその場に置き、つかつかと近寄ってきて彼から筆を取り上げた。 そしてさらさらと彼女の頬に小さめに文字を書く。 たった二文字の言葉。 「リタからあなたへのメッセージよ。私が代筆しといてあげたわ」 更に彼女はさらりとティンに向かって言い放つ。 その言葉とティンの頬に書かれた文字を見比べながらリタは顔を真っ赤にし、しかし次の瞬間フローから筆を取り返し、書かれた言葉に慌てて二文字付け足す。 「えー? 何々? ていうかなんかいっぱい書いてない?」 「あ、あはは、その、ち、小さく書いたから!」 慌てふためくリタにティンは「ふーん、ならいいけど」と納得し、 「それじゃもう一回やろうかー!」 「えー、でもちょっと疲れちゃったよ。さっきのだってまぐれで勝ったようなもんだし……」 「じゃあちょっと休憩して、それからやろうよ。あたしだってこんな負け方したままじゃスッキリしないよ」 自分とリタの分のおしるこを用意しに行くのだった。 そしてその場に残されたリタとフロー。 リタをじーっと見つめ、「な、何?」と言う彼にフローは、黙ってため息を付いた。 楽しそうに走って行くティンの頬に書かれた、四文字の言葉。 ――「すき」「やき」 Fin 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お正月にふと彼らに羽根付きやらせてみたくなって書いたもの。 うん、本当ベタ。ベタですね。きっとその日の夕飯は晩御飯のリクエストだと勘違いしたティン作のすき焼きさ。 BACK |