歯を立てないよう、慎重に。彼女の指についたそれを舐めとっていく。
どろどろに溶けた、今日という日の主役。


「……甘い」


少しだけ汗の味が混じるチョコレートも、指先から僕を感じてくれてる彼女の表情も、わざと軽く歯を立てた時に上げる声も。


「……あの……」
「ん?」
「や、やっぱりその……。は、恥ずかしいんですけど……」

真っ赤になった彼女の頬。
その熱にチョコレートが溶かされて、甘い雫が伝う。

「だって。君がチョコレートくれないって言うから。
バレンタインの事は知ってたんでしょ?」
「それは……みんなが言ってましたから……。で、でも……!」
「はいはい」
「んむっ」

ぼそぼそと気まずそうに呟く彼女の口に、余った板チョコの欠片を入れる。

――バレンタインデー。それは女の子が大切な人にチョコレートを贈る日。
彼女は僕の大切な人。でも、彼女にとっての僕はそうじゃないと、彼女は言う。

別に気にしてないけどね。だってそれは、彼女の嘘で強がりだから。
そう、いつもの事。
その証拠にもらえないものは勝手にもらってる僕から、なんだかんだ言って彼女は素直に奪われている。



世界で、一番、大切で。愛おしい彼女。
そんな彼女の口からも、チョコレートを頂く。
やっぱりどろどろに溶けてて、熱くて、甘かった。















Fin





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「バレンタインと言ったらチョコレートプレイをしなくてはいけない」という煩悩丸出しの使命感からこんなSSが出来てしまいましたとさ!


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