バレンタインデー。
女の子が好きな人に、勇気を出してチョコと共に自分の気持ちを伝える日。
もしくは、恋人に再度愛を伝える日。

今までは、そんなの自分には関係ないと思ってた。
毎年孤児院の男の子や神父様に、いわゆる「義理チョコ」をあげるだけだったから。

でも、今年は違う。
運命的な出会いを経て(「運命的」なんて大げさだって言われるかもしれないけど、彼との出会いは本当にそうとしか言えない)、今は大切な人となった彼。


待ち合わせの時間が近付いてきて、段々落ち着かなくなってきた。
だって、だって、いわゆる「本命チョコ」を男の子にあげるのなんて初めてで。自然と顔が赤くなってしまう。
ドキドキしすぎて体が熱くなって、チョコが溶けちゃったらどうしよう。

白君、早く来ないかな。いや、でもやっぱり心の準備が出来てないし、まだ来ないで欲しいのかも。
そんな事をぐるぐると考えていると、こっちに近付いてくる人影が一つ。

白くてふわふわの髪の毛。可愛い兎の耳。宝石みたいに赤くてきらきらした目。
白君だ。


「リチェさーん!」


手を振りながら、わたしの名前を呼ぶ声。
もう迷ってなんていられない。緊張しながら、手を振り返す。

「すみません、待たせてしまいましたか?」
「ううんー。そんな事ないよー」


待ち合わせの時間まではまだ少し時間があるのに、わたしの姿を見て走ってきてくれた白君。顔は笑ってるけど、息は苦しそう。
……そんな優しい白君が、好き。大好き。
それを伝えるために、渡さなきゃ。


「あー。あのね白君ー?」
「はい、なんですか?」
「あのねー。今日ー。バレンタインデーでしょー?」

ちなみに白君の世界にも「バレンタインデー」がある事は、こっそり白君のお友達に聞いて確認済み。
緊張しながら昨日頑張って作ったチョコを、差し出す。

「わぁ、ありがとうございます! 嬉しいです!」

すると白君は笑顔で本当に嬉しそうに受け取ってくれた。
良かった。つられてわたしも自然と顔が笑う。


「……あの、ところで」
「うんー?」


ちゃんと渡せた事にホッとしていると、突然白君が微妙な表情になった。
もしかして、わたし、何かまずい事をしちゃったのかな。どうしよう。
段々不安になってくるわたし。

だけど白君は、そんなわたしに綺麗な箱を差し出した。


「僕の世界、あの、今年『逆チョコ』って言うのが流行ってまして。文字通り、男の人が女の子にチョコをあげようっていう話なんですけど。
なんだかなぁ……っと思いつつも、でも、僕もリチェさんにどうしてもあげたくなっちゃって、その……。
……あっ、ちなみに僕はちゃんとホワイトデーもお返ししますけど、リチェさんは気にしないでくださいね!
僕が勝手にあげただけですし!」


わたわたと話す白君。わたしはしばらくびっくりして、何も言えなかった。

ようやく状況が分かって、嬉しかったけど、なんだか白君はずるいと思った。
わたしはこのチョコレート一つを渡すのに、心臓が破裂しちゃうんじゃないかってくらいドキドキしたのに。
なのに白君は自然な笑顔でそれを受け取って、こんな事までしてくれちゃうなんて。


「……白君のばかー」
「えっ! ご、ごめんなさい、やっぱり迷惑でしたか!?」

大好きな人にこんな事されたら、「気にしない」人なんていないって分かってるくせに。
また、一ヵ月後にも今日みたいにドキドキしなきゃいけないんだ。お返しの為に。
白君は、わたしの寿命を縮める気なのかな。

……でも、でも。


「でもー。大好きー!」


それなのに、なんだかとっても楽しくて、嬉しくて、幸せで。
色んな気持ちが爆発して、わたしは思わず白君に抱きついた。















Fin





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白兎君にドキドキさせられっぱなしのリチェが書きたくて、今年流行の逆チョコネタでやってみました。


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