〈あたしのこと〉 地味で、ブスで、根暗。 お母さんと二人暮らしだから、家はあまり余裕がない。 それがあたし。 お母さんがつけてくれた「ショコラ」って言う名前は可愛いけど、名前負けしてちゃってるって思うと素直にお母さんには感謝できない。 特に珍しくも無い、緑色の目。牛乳瓶の底みたいな、分厚い眼鏡。 生まれつきの髪の毛は、くすんだ赤毛。 長く伸ばしてみたいけど、天然パーマのせいでもさもさになるだけだから、結局いつも短くしてる。 服はいつもダサくて地味な長袖Tシャツに、パッとしないロングスカート。 本当はもっと可愛い服が着てみたいけど、そんな事で文句なんて言えない。 学校に行かせてもらえるてるだけで、ありがたいくらいだもん。……それに、どうせブスなあたしじゃ可愛い服なんて似合わないし……。 気が弱くて人と話すのが苦手だし、とろいし、これといった特技もない。 そんなあたしはいつも友達がいなくて、苛められてばっかりだった。 せめて、もっと可愛い子に生まれてたらって、いつも思ってた。自分の外見が、嫌いだった。 だけどだからこそあたしには今、ハーウェルちゃんっていうお友達がいる。 〈ハーウェルちゃんのこと〉 雪みたいに白くて、とっても綺麗な長い髪。琥珀みたいに透き通った、茶色い瞳。 お洋服はいつも、シンプルで、だけどセンスの良い茶色いワンピース。お人形さんみたいで、すっごく可愛い。 性格も明るくて優しいから、いつも色んな人に声をかけられてる。 男の子に告白された事も、あるんだって。 だけど、ハーウェルちゃんは生ままれつき目が見えない。 ……あたしは、簡単に言えばそんなハーウェルちゃんの弱みにつけ込んだようなものかもしれない。 ハーウェルちゃんなら、少なくともあたしが一番嫌いで、馬鹿にされてきた、あたし自身のブスな顔は分からない。 そう思って、勇気を出して話しかけた。優しいハーウェルちゃんは、そんなあたしなんかともお友達になってくれた。 ハーウェルちゃんは、目が見えないなんて大した事ないかのように、いつも明るく笑ってる。きっと本当はすごく大変なはずのに。 でもそれが、ハーウェルちゃんが色んな人に好かれる理由なんだって思う。 そんなハーウェルちゃんだから、あたしも周りの皆と同じ様に、すぐにハーウェルちゃんを大好きになった。 そして今、あたしは前よりずっと楽しい毎日を送っている。ハーウェルちゃんと一緒にいると、暗いあたしでもいつも笑顔になれる。 でも、何でかな。最近、今まで経験した事のない苦しさが、時々胸を締め付けるの。 恋、とかそんな綺麗な感情じゃなくて、何かもっと、汚い感情。モヤモヤする。 だけど決してその正体を知ってはいけない気がして、あたしは今日もまた、正体不明の苦しさから目を逸らすのだった。 〈私のお友達〉 私には今、とっても大好きなお友達がいる。名前は、ショコラちゃん。 私は目が見えないからショコラちゃんの外見は分からないけど、でも目が見えない分、他の事は普通の人よりよく分かるつもり。 ショコラちゃんは大人しい子で、そしてとっても優しい子。一つ一つの動作から、相手への思いやりが伝わってくるの。 目が見えない私の手をすすんで引いてくれたのは、ショコラちゃんが初めてだった。 他の子はみんな「大変だね」なんて声を掛けてくれるけど、それだけ。 本当に私の手をとって一緒に歩いてくれるのは、ショコラちゃんだけ。 ショコラちゃんはたまに私の事を「お友達が多くて羨ましい」なんて言うけど、私は全然そうは思ってない。 確かに私に話しかけてくれる人はたくさんいて、前の私ならそういう人の事を「友達」って思ってたけど、今は違う。 今なら、本当の「友達」はショコラちゃんだけだって、分かるの。 〈ハーウェルちゃんの髪〉 「ハーウェルちゃんの髪って、本当に綺麗だよね……。白くて、さらさらで、真っ直ぐで……」 ハーウェルちゃんの髪を梳かさせてもらいながら、あたしは思ったままの事を口にした。 さらさらなところも真っ直ぐなところも、あたしの髪には全然ない要素だから、羨ましい。 「そう、かな……? 私は自分の髪の毛、あんまり好きじゃないんだけど……」 「どうして……? こんなに綺麗なのに……」 「私には、見えないから分からないんだけど……。色、真っ白だよね? いつも目立っちゃうから……」 確かに、白い髪はここら辺じゃ珍しくて、あたしはハーウェルちゃん以外には知らないけど。 「そっか……。でも……、あたしはハーウェルちゃんの真っ白な髪、好きだよ……?」 純白の、真珠みたいな髪の毛。 まるでハーウェルちゃん自身を表してるようで、すごく似合ってると思うから。 「……ありがとう」 するとハーウェルちゃんは、嬉しそうに笑ってくれた。 良かった。あたしなんかの言葉でも、少しでも笑ってくれたなら。 「ねぇ、今度は私がショコラちゃんの髪、梳かさせてもらってもいい?」 「え……。いい、けど……でも……」 でも、私のボサボサな髪じゃハーウェルちゃんの髪みたいにするする櫛が通らないし、楽しくないと思うんだけどな。 そう思ってる内に、いつの間にか後ろにハーウェルちゃんがいて、髪を櫛が通ってく感触がした。 「……でも私、自分のよりショコラちゃんの髪の毛の方が好き。ふわふわの、優しい感触で。 きっと色も同じで、優しい赤色なんだろうなぁ」 「そっ、そんな……! あ、あたしの髪なんて、ただのくるっくるの天然パーマなだけだよ……! 色もくすんでるし……」 「そんな事ないよ、きっと。ショコラちゃんは、いつも自分の良さが分かってないんだから」 慌てて否定しても、ハーウェルちゃんはそう言いながらあたしの髪を梳かしてくれてる。 ……本当に、ハーウェルちゃんが思ってるほど素敵な髪じゃないのに。 ハーウェルちゃんは、いつもあたしを褒めすぎだといつも思う。あたしにはそんなに褒められるとこなんて、ないのにな。 でもそんなとこが、優しいハーウェルちゃんらしいって言えばらしいんだけど……。 〈ハーウェルちゃんの歌〉 「〜♪〜〜♪〜〜」 綺麗な歌声が、風に乗って周りを包み込む。 あたしはそれを聞きながら、目を閉じていた。こうしていると、ハーウェルちゃんと同じ世界が見られる気がして。 「……ご清聴、ありがとうございました」 しばらくそうしていると、歌が終わったようで、聞こえる音は風の音だけになった。 目を開けると、スカートの裾をつまみながら、優雅にお辞儀をしているハーウェルちゃんがいた。 「ううん、こっちこそありがとう……。ハーウェルちゃんの歌、今日もすっごく素敵だった……」 「そんな……私はただ、歌うのが好きなだけだよ」 本人は謙遜してるけど、ハーウェルちゃんは本当に歌が上手だ。 ハーウェルちゃんは生まれつき目が見えなかったから、小さい時からよく歌を歌ってたんだって。だからあんなに上手なのかな。 それに、ハーウェルちゃんはすごく耳が良いから、それも関係あるのかも。 目が見えないと、目の分まで耳が頑張ろうとして耳が良くなるって、ハーウェルちゃんが言ってた。 ……天使みたいに綺麗な歌声を聞く度、素直に感動する気持ちとは別に、本当はすごく羨ましいって思っちゃう。 外見も中身もダメダメなあたしでも、あんな風に歌えたら、少しは自分の事が好きになれるのになぁって。 ……あたしも、もし目が見えなかったら、なんて、そんな事考えちゃいけないのに、考えちゃう。 そんな事を考えるのはハーウェルちゃんにすごく失礼だって、分かってるのに。そう考えずにはいられない。 それくらい、あたしはあたしだけの何かが欲しいのかもしれない。自分を少しでも好きになれる、何かを。 〈ショコラちゃんとお勉強〉 私は目が見えないけど、一応普通の生活は送れる。 というのも目の代わりに耳や他の器官が頑張ってくれてるから。 大体の周りの状況は、耳に入る音とか、手や足から伝わる感触とかで分かる。 歩く時は真っ直ぐ歩けるし、ご飯も一人で食べられる。着替えだって一人で出来る。 ただ……やっぱり、流石に文字や絵を書いたりするのは、出来ない。 それで何が困るかって言うと、やっぱり学校のお勉強。授業を受けても、ノートが取れない。 だから授業を聞いて全部覚えなきゃいけないのだけれど……流石に、一回聞いただけじゃ全部覚えきれない。テストもあるから、それじゃ困る。 ちなみにテストは毎回私だけ別の部屋で、先生が問題を読みあげてくれて私がそれに答える、っていうやり方で受けさせてもらっている。 今まではテストが近くなったら、毎回先生にもう一回教えてもらいに行ってた。 ……でも、今は違う。今は……。 「じゃあ、えっと……。『私は昨日図書館に行きました』を英語にしてみて……?」 「I went to the library yesterday.」 「うん、正解だよ。これで多分、英語は大丈夫だと思うんだけど……」 そう、今はショコラちゃんが教えてくれてるの。 ショコラちゃんは、とっても頭がいい。いつもクラスで十番以内だし、先生にもよく褒められてる。 それに、教えてくれるのもすっごく上手。頭がいい人って教えるのも上手って、本当なんだね。 ショコラちゃんのおかげで、私は前よりちょっとずつ成績が良くなってる。お勉強も楽しいって思えるようになった。 「ショコラちゃん、いつもありがとう。ショコラちゃんって、本当に頭いいんだね」 「う、ううん……。あたし、勉強くらいしか普段する事、なかったし……。それに、その……折角学校行かせてもらってるんだから、頑張って勉強しなきゃって……」 もじもじと恥ずかしそうに言うショコラちゃんは、本当にお母さん思いの優しい女の子だなぁって思う。 前ショコラちゃんのお家にお邪魔させてもらった時、確かにショコラちゃんがいつも言ってる通り、必要最低限くらいの物しかない家だったけど、でも、ショコラちゃんのお母さんはお仕事で忙しそうなのに私を歓迎してくれて。 ショコラちゃんとショコラちゃんのお母さんを見てると、なんだか自然と暖かい気分になれた。 それくらい仲が良いんだろうなって、ちょっと羨ましい。 「ショコラちゃん、あのね」 「うん……?」 「私、ショコラちゃんのおかげで成績が良くなったし、お勉強も前より好きになれたの」 「ほ、ほんと……? でも、それはハーウェルちゃんが元々覚えるのが早いからで、あたしなんかのおかげじゃ……」 「違うよ、そうじゃないの。あのね、ショコラちゃんとお勉強するのが私、好きなの」 それはつまりね、ショコラちゃんとなら、どんなにつまらない事だって楽しくなるって事だよ。 「……あっ、あたしもっ。ハーウェルちゃんとなら、勉強するのも楽しいよっ……!」 私にショコラちゃんの表情を見る事は出来ないけど、きっと、照れながらも、一生懸命。 そんな顔で、言ってくれたんだと思う。声からそれが伝わってくる。 それがすごく嬉しくて、私は笑顔にならずにはいられなかった。 〈ハーウェルちゃんのお家って〉 「まあ、ショコラ。今回のテストも頑張ったのね、偉いわ」 この間のテストを見せると、お母さんはにこにこしながらあたしの頭を撫でてくれた。ちょっとくすぐったいけど、心地良い。 それに、あたしはお母さんの笑顔が大好きだから、ますます嬉しくなった。 「今日の晩御飯は、ショコラの好きなハンバーグにしましょうね」 「ほ、ほんと……!?」 「ええ、頑張ったご褒美よ」 ハンバーグなんて家では滅多に出てこないから、すごく嬉しい。 あたしは、お母さんの作るハンバーグも大好きなのだった。 キッチンへ向かうお母さんをいつものように手伝おうとすると、「今日はいいから、座ってなさい」って言われた。 何回手伝うって言っても同じ返事が返ってくるから、仕方なく座る事にした。 小さなテーブルの前でぼんやりと考えたのは、やっぱりハーウェルちゃんの事。 ハーウェルちゃん、前回よりもテストの点数上がったって嬉しそうにしてた。ハーウェルちゃんが嬉しそうだと、あたしも嬉しい。 それに、勉強は唯一あたしがハーウェルちゃんに教えられる事だから(勉強以外の事は、何でもハーウェルちゃんの方が上手だ)。 その事でお礼を言われると、ちょっと優越感にも似た嬉しさがあるのかもしれない。 ……あたしって、やっぱり暗いなぁ……。素直に友達の幸せだけを喜べないなんて。 ……そうだ、ハーウェルちゃんも、お父さんやお母さんに褒めてもらえたのかな。そうだといいな。 でも実は、あたしはハーウェルちゃんのお父さんやお母さんの事を全然知らない。 前、ハーウェルちゃんのお家ってどんなお家か聞いたことがあった。 だけどその時のハーウェルちゃんは、ちょっと困ったように笑うだけで、結局何も教えてくれなかった。 その時あたしは、きっとあたしの家なんかよりよっぽど複雑な事情があるんだろうって思って、それ以来ハーウェルちゃんのお家の事は聞かないようにしてるんだけど……。 でも、なんとなく、ハーウェルちゃんって、お金持ちのお嬢様なんじゃないかなって思う。 着てるお洋服が高そうだし、何より仕草一つ一つが、なんかこう、お上品な気がする。それにやっぱり、すっごく可愛いし……。 そしたら、もし本当にお嬢様だったとしたら、もう完璧だ。可愛くて、明るくて、優しくて、お金持ちだなんて。 あたしなんかが友達でいちゃ、いけない……くらい……。 ……ダメダメ、勝手な想像で勝手な思い込みしちゃダメだよ、ね。頭を振って、想像を振り払う。 そんな時、ちょうどハンバーグの湯気が目の前に立ち上って、晩御飯が出来たのだと気付いた。 〈本とハーウェルちゃん〉 「今日は、ね……。何冊か本を借りてきてみたんだけど……」 「あ、本当? どんな本?」 「えっとね……」 あたしは持ってきた本の題名を、順番に読み上げていく。 あたしの趣味で選んできちゃったんだけど、ハーウェルちゃんが気に入ってくれるものがあるかな。 「あ、その『きらきら夢色魔法』って言うの、聞いてみたいな」 「あ、このお話……あたし、好きなんだ……」 「わぁ、そうなの? 私達、趣味が合うね」 くすくすと笑うハーウェルちゃんに釣られて、あたしも自然と笑顔になる。 「それじゃ、読むね……」 元々本が大好きなあたしは、最近本が読めないハーウェルちゃんの代わりに、本を読んであげてる。 音読はあまり得意じゃないけど、それでもハーウェルちゃんは楽しそうに聞いてくれるので、頑張って一文字一文字読み上げていく。 このお話は、悪い魔女に姿をフラスコにされてしまった女の子が、一人の魔法使いの男の子に出会って、最後は魔法が解けて元の人間に戻り、その男の子と幸せに暮らしていく話。 ありがちって言えばそうなのかもしれないけど、あたしはこのお話が好きだった。 姿を変えられても落ち込む事なく明るい女の子と、不器用だけど優しい男の子。 ハッピーエンドで本当に良かったって思う。 「〜も、少しだけ嬉しそうでした。おしまい……」 「……すごく素敵なお話だね。私もこのお話、好き」 お話を読み終わった後、ハーウェルちゃんはしばらく目を閉じてた後に、笑顔でそう言ってくれた。 「ほ、ほんと……?」 「うん。今日も素敵なお話ありがとう、ショコラちゃん」 「ど、どういたしまして……!」 ハーウェルちゃんにもこのお話が好きって言ってもらえて、嬉しくなった。良かった、気に入ってもらえて。 「でも、お話も素敵だったけどね、私、ショコラちゃんの読み方も好き」 「え、えっ……?」 だけど続いた言葉の意味が分からなくて、あたしは首を傾げた。 「ショコラちゃんが読んでくれると、すごく本の世界が暖かく感じるの」 「そ、そんな……! あたし、そんなに読むの上手じゃないよ……!」 ハーウェルちゃんはあくまでにこにこしながらそう言ってくれてるけど、とんでもない。 あたしにそこまで人を感動させるような音読の才能は、ない。 むしろ言葉は途切れ途切れだし、聞きづらくて申し訳ないくらいなのに……。 「ショコラちゃんがどう思ってるかは分からないけど、でも私はそう感じたよ」 「ハーウェルちゃん、か、買いかぶりすぎだよう……」 あたしは段々顔が赤くなっていくのを感じた。それなのにハーウェルちゃんは、やっぱりにこにこしている。 ……毎回思うんだけど、もし、もし。 ハーウェルちゃんが本の音読が出来たら、あたしなんかよりきっと上手だろうな、って。 透き通った天使みたいな声で静かにお話を語ったら、きっと誰もが真剣に聞かずにはいられないと思うのに。 まぁ、それは本当に「もし」の話で、実際はハーウェルちゃんは本が読めない訳で。 でも、絶対そうだろうなとも思う。 だってハーウェルちゃんは、器用で何でも出来ちゃうから。 あたしなんかの事を褒めてくれるのだって、ハーウェルちゃん自身にはそれが出来ないからそう思うだけじゃないかな、って……。 ……ああ、また、良くない癖。どうしてあたしは、いつもハーウェルちゃんの言葉に素直に喜べないんだろう。 本当に、あたしって性格暗い……。嫌だな……。 〈最近のショコラちゃん〉 最近、ショコラちゃんはなんだか元気がない気がする。 普段はいつも通りなのに、ふとした時に少し声のトーンが落ちてる。 どうしたんだろう……。直接聞いてみても、「何でもないよ」としか言ってくれないし……。 ……私には言えないような悩み事とか、あるのかな。 頼られてないって思うと悲しいけど、でも、いくら仲の良いお友達でも、言えない事はあるよ、ね。 ……私だって、家の事内緒にしてるし……。 じゃあこんな時、私はどうすればいいんだろう。 そうだ、人に何かしてあげる時は、まず私が何をされたら嬉しいか、考えてみるといいって、聞いたことがある気がする。 私が落ち込んでる時、ショコラちゃんはいつも何をしてくれた? ……そうだ、私が落ち込んでた時ショコラちゃんは、まず真っ先に気付いてくれて、心配そうに「どうしたの?」って聞いてくれた。 だけど私がそのまま黙ってると、決まって深くは聞かずに、さりげなく私を励ましてくれるの。 物語を聞かせてくれたりとか、とってもいい香りの花を持ってきてくれたりとか、髪を梳かして結ってくれたりとか。 そんな、自然だけど嬉しくなれるような事を、私もショコラちゃんにしてあげられたらいいな。 ううん、「いいな」じゃなくて、絶対にするの。 少しでもショコラちゃんには、笑っていて欲しいから。 〈最近のハーウェルちゃん〉 最近のハーウェルちゃんは、どこかよそよそしい気がする。 話しかけてもどことなく上の空だし、そして放課後になると決まって、「用があるから」って言って急いで帰っちゃう。 前までは放課後はいつも一緒にいて、お喋りしたり、あたしが本を読んであげたり、ハーウェルちゃんの歌を聞かせてもらったりしてたのに。 何をしてるのかって聞いてみても、困ったように笑うだけで教えてくれない。 ……もしかしてあたし、嫌われちゃったのかな。 心当たりも、なんとなく、あるし……。 あたしは、やっぱり気付いてはいけない事に気付いてしまった。目を逸らし続けるのも、限界だったんだ。 あたしは……あたしはハーウェルちゃんの事が大好きだけど、でも、一緒にいればいるほど、ハーウェルちゃんのすごさが分かってきて、いつからかそれは純粋に「すごいなぁ」って思う気持ちから、「羨ましい」って気持ちの方が強くなっちゃってた。 普通の人が誰でも当たり前に持ってる「視力」がない代わりに、普通の人よりもすごい事が出来ちゃうハーウェルちゃん。 そんなハーウェルちゃんが羨ましくて、何もない自分が惨めで。 傍にいればいるほど苦しかった。 ……そんなあたしの汚い感情に、ハーウェルちゃんは薄々気付いちゃったんじゃないかな。 だってあたしは最近そんな事ばっかり考えてモヤモヤしてたし、ハーウェルちゃんは人の心の変化に気付くのが得意だから。 ハーウェルちゃんは優しいから、きっとそれで気を遣ってくれて、あたしをなるべく一人にしてくれてるのかもしれない。 折角できたお友達に、こんな気遣いをさせちゃうなんて……あたし、本当に嫌な子だ。ごめんなさい、ハーウェルちゃん。 でも、でも、どうしてかな。ハーウェルちゃんと一緒にいると苦しくなるのに、一緒にいなくてもすごく苦しいよ。寂しいよ。 ……自分勝手、だよね。でも、止まらない。 ハーウェルちゃんとは、もうお友達でいられないのかな……? 〈ハーウェルちゃんとあたし〉 ハーウェルちゃんが急いで家に帰りだすようになって、結構な日にちが経っていた。 今日もきっと、「ごめんね」って言いながらハーウェルちゃんは真っ直ぐお家に帰るんだろうなって、そう思ってた時。 今日のハーウェルちゃんは、「今日はいつもの場所、一緒に来てくれるかな……?」って。 あ、いつもの場所って言うのは、前あたしとハーウェルちゃんがよく遊んでた丘。 色んな花が咲いてて、一番高いところには大きな木が一本生えてて、その木の下でハーウェルちゃんとお喋りしてる時間が、あたしは一番好きだった。 「今日は用事、大丈夫……?」 「うん。昨日で終わったの」 あたしがそう聞くと、ハーウェルちゃんは嬉しそうにそう答えた。 ……なんだか、ハーウェルちゃんの笑顔を見たのは久しぶりな気がして、あたしも少し嬉しくなった。 「ここに来たのも、随分久しぶりな気がする」 「うん……」 いつもの木の下に着いた時、ハーウェルちゃんはそう言った。あたしも、そう思う。 それにしても、やっぱりここの優しく吹く風は気持ちいい。 「あのね、ショコラちゃん。今までごめんね」 「え……?」 すると何故かハーウェルちゃんは、いきなり申し訳なさそうに謝りだした。 「なんだか、今まで避けてたみたいになっちゃってたでしょ……?」 「それ、は……」 確かに、そうだけど。でもそれは、ハーウェルちゃんは悪くないよ。あたしがそう言い返そうとした時だった。 「あのね、最近ずっと、これを作ってたの」 「これは……?」 そう言って控えめに差し出されたハーウェルちゃんの手にあったのは……。 「わぁ……!」 可愛い、ビーズのブレスレット。 綺麗なルビー色のビーズと、真珠みたいな白いビーズが、交互に並んでる。 「すごい……。これ、ハーウェルちゃんが作ったの……?」 「うん。初めてだったけど、頑張って練習して、なんとか。これは中々上手く作れた……と思ってるんだけど……」 「うん、とっても素敵……」 「本当? 良かった〜」 シンプルだけど、繊細なビーズが綺麗にテグスに通されたそのブレスレットは、やっぱり見れば見るほど素敵で。 こんなに小さいビーズ、きっと一つ一つ通すの大変なんだろうなぁ……。 目が見えなくても、やっぱりハーウェルちゃんは普通の人よりすごいんだ。……何にも出来ないあたしとは、大違い……。 と、あたしがそんな事を考えてた時だった。 「じゃあショコラちゃん、早速つけてみて」 「……え?」 「ね、腕、出して?」 言われるがままにハーウェルちゃんの前に腕を出すと、すっとさっきのブレスレットが嵌められた。 あたしは思わずその腕をまじまじと見てしまう。すごい。 こんなあたしでも、このブレスレットをつけてると、少しだけ素敵な女の子になれる気がする。 「それをつけてくれたショコラちゃんが見れないのは残念だけど……でも、ほら。お揃いで、私の分も作ってみたんだー。どうかな?」 楽しそうにそう言ったハーウェルちゃんの腕には、もう一つ、同じブレスレットが嵌まっていた。ワンピースとも合ってて、すごく似合ってる。 「……あ、あ、れ? おそろ、い?」 だけどあたしは、そこで一つの言葉が引っかかった。お揃い、ってそれは、つまり、えーっと? 「うん! あ、あのね、ショコラちゃん、もうすぐ誕生日でしょ? だから、ちょっと早いけど誕生日プレゼントって事で」 「!」 ……誕生日? そういえば、本当にそうだ。もうすぐあたしの、誕生日。 …って事、は? 「も、もしかして、このブレスレット……。あたしの為に作ってくれたの……?」 「もちろん! だって、大好きなショコラちゃんのお誕生日だもの!」 嬉しそうなハーウェルちゃんを見て、あたしは色んな事に気付いた。 最近真っ直ぐ家に帰ってたのは、もしかしてこれを作るため? 話しかけてもぼーっとしてたのは、夜遅くまでこれを作ってたから? だっていくら器用なハーウェルちゃんだって、目が見えないのにこんなに細かいビーズのブレスレットを作るのは、きっとすごく大変だ。 それなのに、あたしなんかの為に……? 「……っ」 気付いたら、あたしは泣いていた。 目から流れる涙は、ぼろぼろと頬をすべり落ちていく。 「ショ、ショコラちゃん……?」 あたしが黙り込んでしまったからか、ハーウェルちゃんは不安そうにあたしを見つめた。 「……ごっ、ごめっ、んっ……。上手にっ、喋れな……」 「ショコラちゃん、泣いてるの……? も、もしかしてどこか痛いの? それとも、こんなのいきなり押し付けられて迷惑だった?」 「違う、違うの……っ」 ……今、もう一つ、新しい事が分かった。 それは「羨ましい」の影にあった、もう一つの、あたしの別の弱い心。 ハーウェルちゃんがすごいって分かる度に、あたしは自分のダメ加減が分かるから落ち込んでた。 だけどどうして落ち込んでたかまでは、ちゃんと分かってなかった。 あたしは毎回、こんなあたしじゃいつかハーウェルちゃんに置いていかれるんじゃないかって、不安だったんだ。 ハーウェルちゃんには他にもあたしより良いお友達がたくさんいるから、いつかあたしなんかいらなくなっちゃうんじゃないかって。 でも、今。あたしはシンプルだけど、一番大事な事を思い出した。 それは、あたしはハーウェルちゃんが大好きだって事。 そして嫉妬や不安に負けそうになってたあたしに、それをまた気付かせてくれたのは、やっぱりハーウェルちゃん。 「あの、ね……。あたしもハーウェルちゃんの事、大好きだよ……」 「うん、私もショコラちゃん大好き!」 だから、そう。これからは。 ハーウェルちゃんがそう言ってくれる限り、あたしもハーウェルちゃんを信じていこう。 ――心からの、ありがとうを。 あたしの一番大好きな、お友達へ。 Fin 〜〜〜〜〜〜〜〜〜 他校の文芸部さんの部誌に、ゲスト参加させていただいた時に書いたものです。 サイトにも載せていいって許可いただきましたので、載せてみました。 この作品には色々と語れる事が多いんですが、まぁあんまり長ったらしいのもアレなので、大事なとこだけ。 まずは、ね。女の子の友情って可愛いなっていう。 そして私が今までずっといつか書いてみたいなって思ってた、「嫉妬」という題材をば。 友達だからこそ、一緒にいればいるほどその子のすごい部分が分かっちゃうじゃないですか。 更に大好きだからこそ、嫌な部分があんまり見つからない。 それで最終的には、「羨ましい」って思っちゃうんです。 私は心が素直でも強くもないので、時にそれが行き過ぎてその友達が憎くなったりもします。 でも、やっぱり大好き。 そんな、そんな乙女の葛藤を・・・(なんか違う) 結構消化不良感があるんですが、まぁハッピーエンドだったし良かったかな、と。 ショコラとハーウェルは、本当にいつまでも親友でいて欲しい子達なので。 と、言いつつもやっぱり消化不良なので、この二人のお話はまた書いてみたいですね。 BACK |