「あなたって……友達いないでしょ……。だから詩苑に構うの……?」

「選ばれし者は、時には孤独にならなければならないのだ。
 皆から嫌われようと、世界を敵に回そうと、私にはやらねばならぬ使命がある……」



一つに束ねた長い黒髪をはためかせながら、その少年は自信満々に言った。





ハイテンション・アテンション





ゆるやかな風が吹き抜けて、草を鳴らしていく。二人分の黒い髪も、揺れる。


「……別にいいけど……。でも詩苑……人間の友達いらないから……」
「何を言うか、私はお主と友達になりたい訳ではない。
 お主の力が必要だから、協力をして欲しいと言っているのだ」


詩音、と自分を呼ぶ少女は、手の甲にトンボを止まらせながら、視線をそこから動かさない。
長い前髪で隠されている目がどんな色をしているのか、少年には分からなかった。
が、そんな事少年にとってはどうでも良いようで。


「お主のその虫と話せる能力……誰にもない能力だ。周りは気味悪がっているが、私には分かる。
 その力こそが、世界を救う力だと!」
「だから、詩苑……別にそういうのはいいから……。詩苑は虫さんと楽しくお話してれば、それで幸せなの……」
「その虫さんのいる世界が、滅びようとしているのだ! 何故、戦わない!?」

「だって……世界に危機なんて迫ってないから……。ね、トンボさん……」


風が吹く度に詩苑の長い前髪が揺れるが、その度に彼女は空いている方の手で前髪を抑える。
サイドで高く結ばれている方の髪はどうでもいいのか、放っておかれて風に流されるままだった。




「そう、あいつらは狡猾だ……表にバレないように上手くやり、気付いた時には既に手遅れにするつもりだ……!
 しかし私は、それに気付くことができた!
 なら、戦わねばならない!

 それが気付いた者の使命……安倍晴明の血を引き、ダイヤモンドの輝きを持つ男、この安倍大也の使命なのだ……!」




真っ黒な瞳をまさに黒ダイヤのごとくキラキラさせる大也少年だが、その間も隣の詩苑は、やはり視線を動かさずトンボを見つめているのみだった。


「……詩苑にはよく分かんないけど……まぁ……頑張ってね……。それじゃ……」


そう言うと彼女は、少し手を動かす。
するとたちまち止まっていたトンボは飛んで行って、彼女は立ち上がって手を振った。


「お、おい、どこへ行くんだ!?」
「帰る……じゃあね……」
「話はまだ終わって……!」


そのまま彼女は脇に置いておいた鞄を拾って、彼に背を向けて歩き出した。

風に揺れるひざ丈のスカートとツインテールに、同じく風で揺れる黒い学ランと一つに縛った髪は、何か言い足りなさそうにその後ろ姿を見つめていた。










「ねえ、聞いて! あたし昨日見ちゃったんだけど!」
「何々?」
「昨日河川敷でさー、見ちゃったの! 男子と女子で! 二人っきりで!」
「えー、まさかうちのクラスの誰かとか?」
「そう!」
「誰々〜?」
「それがさ、安倍君と深門さん!」
「え〜!? あの二人って付き合ってんの!?」
「分かんないけどぉ〜……あ、噂をすれば」


朝礼前の教室、女子生徒の噂話。
それはとてもよくある光景で、平和な日常。その内容が恋の話となれば、それはますますよくある事だ。



「ねー、深門さんって、安倍君と付き合ってんの?」


静かに、まるで空気のように存在感を出さない。
詩苑はいつもそうして過ごしていて、今日もそのように教室に入ってきた。

のだが、今日は珍しく、彼女に声を掛ける人間がいた。


「ないよ……」
「えーっ、でも昨日二人でいたんでしょお?」
「世界を救わないかとか勝手に……言われてただけ……」
「やだーっ何それェ! それでそれで?」
「別に……」
「別にって……」


それきり詩苑は黙って鞄の中身を取り出す作業に集中しだしたので、彼女の周りに集まっていた女子達も、離れていかざるを得なかった。



「深門さんて、やっぱ絡みづらいよね〜」
「ねー。安倍君も相変わらずのイタさだけど、深門さんもいい勝負だし」
「あ〜あれでしょ! 深門さんって『虫さんとお話できる』んだっけ?」
「そうそう〜!」


本人に聞こえる位置なのにも関わらず、彼女達は大きな笑い声を立てていた。
しかし当の本人は気にする事なくノートを開き、授業の予習を始める。


「ぶっちゃけお似合いじゃない?」
「かもねー! ちょっと頭アレな人同士でさぁ〜」


無責任な笑い声は、始業のチャイムが鳴るまで続いた。










「安倍君……噂になってるよ……」
「ん? ああ、ついに私の活躍が日の目を」
「安倍君と詩苑、付き合ってるって……噂になってる……」
「なっ……」



放課後の河川敷、昨日とまったく変わらない人間が、二人。
唯一変わったのは、詩苑の手の中にいるのが、トンボからバッタになったくらいである。


「こっ……これだから民間人は……な、なんでもかんでもすぐ恋だのなんだのと……」
「安倍君も民間人でしょ……」
「違う! 私は安倍晴明の誇り高き血族、安倍大也だ!」


顔色一つ変えずに相変わらずバッタと戯れる詩苑に対して、大也は顔を真っ赤にしている。
今日も吹く爽やかな風が、温度の上がった頬を冷ますように吹き抜けた。


「なんでもいいけど……もう詩苑に構うのやめて……。
 詩苑……そういう噂にされるの嫌いだし……。
 大体大也君だって……いくら友達いなくても、詩苑みたいな子と噂になるのは嫌でしょ……」


前髪で隠された目からは相変わらず感情を読み取れなかったが、少しだけ声のトーンは落ちていた。
それを読んでか読まずか、落ち着きを取り戻したらしき大也が、珍しくきょとんとした顔をした。



「何を言う? 女子と噂になるのはともかく、私はそれが詩苑だから嫌な訳ではない」

「え……」



昨日も今日も一度も大也にまともな視線を向けなかった詩苑が、思わず振り向く。
あまりの勢いにふわふわしたツインテールの黒髪が振り回され、顔に当たってはねた。


「詩苑は私と同じく周りに流されないし、学業も非常に優秀だと聞くぞ」
「だって詩苑……暗いから虫さんしかお友達いないし……前髪長すぎて気持ち悪いって言われるし……」
「明るいだけが人間ではなかろう。それに私は正直、キャピキャピした小うるさい女子は苦手だ。
 その前髪だって、理由があって目を隠しているのだろう?」
「……うん……」


詩苑は自身が前髪を伸ばして目を隠している理由を思い出し、俯いた。


(……案外……根はいい人かも……)


だがそれと同時に、ほんの少し、ほんの少しだけ、目の前の少年の認識を改める。
そうして顔を上げて、前髪越しに彼を見上げた時だった。


「何を隠そう、私も昔は力の制御が出来なくてな。強すぎる力を封印する為、印の入った眼帯を付けていたのだ」


ふっ……と過去を振り返るような、だけど得意げな大也に、詩苑は思わず、




「ふ、ふふ……っ。安倍君って……変な人……」




くすくすと、控えめに笑ったのである。
目は相変わらず隠されていても、ずっと変わらない形だった彼女の口元が、笑顔の形になったのだ。

これには大也も驚き、思わず目を丸くする。
何せ今まで一度たりとも、彼女の笑っている姿を見たことがなかったし、何より。
それは普段浮世離れした彼女が見せた、年相応の少女らしい姿であった。

彼だけではない、学校中の人間が、誰も見た事がないであろう姿である。
それだけに彼の驚きは大きなもので、しかししばらくするとまた、フッ、と彼もまた笑みも漏らす。


「天才は得てして凡人からはそう呼ばれることが多いからな」
「天才と変人は……紙一重ってやつでしょ……ふふ……。
 ねえ……今は眼帯、しなくてもいいの……?」
「今はもちろん、修行をして己の力をコントロールできるようになったからな」



柔らかくなった空気の中、何度目か分からない風が吹き抜ける。
だけどその風は今までよりほんの少し、優しくて澄んでいるような気がした。

















――This story is fin.
   But, their story began....















〜〜〜〜〜〜〜〜〜

タイトルは勢いだけで付けた。

この「詩苑」という子なのですが、結構昔、元々違うお話に出そうと思って考えたキャラなのです。
ですが色々あってそのお話が書けなくなったので、でも折角生み出したキャラだし、ずっと別の何かに出してあげたいと考えていました。
それでようやく今回彼女の為の新しいお話を考え、彼女も日の目を見ることができました。

お話にするに当たって、詩苑一人ではストーリーが動かない。
だけど詩苑みたいな子でも構ってくれるのってどんな子だろう……と、考えた結果。
大也が生まれました。
今回はこの二人が単に出会っただけなので、詩苑も大也も全然設定とか出せてないし、
この二人のお話は、まだまだ続きを書きたいなあと思います。


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