ルーンとローズが旅立った後、その場に残されたキーラとルーラ。
頭を下げて跪いていた体制から立ち上がり、城の方へと入っていきます。

そして城の中へと入った瞬間……



「ああっ、ローズ様、今日も素敵だったわ……!
あの凛々しく美しいお顔。バラのような真紅の髪。知的な眼鏡。どれをとっても本当にす・て・き」
「え、キーラって眼鏡マニアなの?」
「違うわよ! 何で今の話でそこだけピンポイントに注目する訳?
大体ローズ様だからこそ褒めてるのであって、眼鏡自体を褒めてる訳じゃないんだから」
「あはは、分かってるよ」



瞳をきらきらと輝かせながら手を組み、うっとりとした表情で夢心地になっていたかと思えば、ルーラの言葉にムキになってみたり。
ルーラの方もにこにこしながらキーラをからかってみたりと、どうやら二人共普段は普通の、歳相応の少女と少年のようです。


「それにしてもまったく、どうしてあんなに素敵な方が、あんなにバカみたいなヤツに仕えてるのかしら。
はあ〜ぁ、あのバカよりあたしの方が何千倍も、ローズ様をお慕いしてるのに……」
「キーラ、それは言っちゃいけない約束だっていつも言ってるだろう? まぁどうせ本人達は今いないけどさ」
「ならいいじゃない。
さて、まぁ文句ばっかり言ってもしょうがないし、せめてローズ様に言われた事をきちんとやりましょう」

そしてそう言いながら、二人は地下への階段を降りて行きました。
それにしても二人共(特にキーラ)、やはり歳相応に素直と言いますか。言いたいことは結構言うタイプのようですねぇ。





reverse adventure!
〜第三話・追いかけっこ〜

「ふぅ〜、地下は何回来ても慣れないわねぇ〜。暗いし湿っぽいし」
「しょうがないよ。地下だし」


魔法で炎を出しながら、二人は奥へ奥へと進んで行きます。この城の地下は結構広かったりします。
そしてローズから教えてもらったお姫様の監禁場所は、一番奥の牢屋。


「ところで監視って、一日中見てなきゃいけないのかしら?」
「そうなんじゃない? 監視だし」
「え〜! いくらローズ様の命令と言えど、四六時中ここにいるなんてっ……!」
「しょうがないよ。でも大丈夫だよ、僕もいるから。僕達二人なら何とかなるって。
……それに、きちんと監視をやり遂げて、ローズ様に褒めてもらうんでしょ?」

地下にはたくさんの牢屋の他にも拷問の道具や、怪しい薬が並べてあったりして、実はちょっぴり怖いキーラなのでした。
ルーラはもちろんそれを分かってはいるのですが(双子ですからね)、あえてにこにこしたまま励ましの言葉だけをかけます。

キーラはその言葉にはっとし、「そ、そうよね! ローズ様の為だもの!」と少し元気を取り戻しました。





さて、そんな事をしている内に、どうやらもう少しで一番奥に着くようです。
最後の曲がり角を曲がると、そこには一番頑丈な牢屋があり、中にお姫様が閉じ込められているはずなのですが……。










「……あ」
「……は?」
「……あれ?」










二人が牢屋の前へとたどり着くと、そこにはやはり例のお姫様がいました。

栗色の髪をポニーテールにしており、顔立ちは流石お姫様と言ったところでしょうか。
とても可愛らしく、紫色の瞳はアメジストのように輝き、透き通っています。
更にピンク色のふわふわしたドレスが、彼女の愛らしさをいっそう惹きたてていました。

しかし、そのお姫様は涙を流しながら牢屋の中に閉じ込められ……ていたのではなく。
なんと、今まさに逃げ出そうとしているところだったのです。
鉄製の牢屋の扉は熱で溶かされています。きっとローズが言っていた通り、お姫様は本当に魔法が得意なのでしょう。



まぁ、それはともかく。


「……」
「……」
「…………」


予想外の展開に、お互い驚いて固まってしまっているよう。

しかし数秒後にはお互い我に帰り、行動へと移りました。
まず、お姫様。ドレスの裾をたくし上げ、双子の脇を上手くすり抜け、出口へと走ります。
双子も逃がしてたまるものかと彼女を追いかけ、こうして双子とお姫様の追いかけっこが始まったのでした。










「まっ……まったく、なんてお姫様よ! 勇者が来るまで大人しく待ってられないのかしら!」
「まぁまぁ、お転婆って意味ではキーラだって同じじゃん。それより早く捕まえないと」


走りながらぶちぶちと文句を言うキーラを、ルーラがなだめています。

このお姫様、もしかしてよくお城から抜け出したりしていたのでしょうか。
足は速い方のようで、二人が必死で走っても少しずつしか追いつけません。

「……なんっか気になる発言があったような気がするけど、まぁ今はそれが優先ね。
よ、よーし、い、いっちょやっ、やっちゃうわよー! ライトニングスパーク!」

息を若干切らせながらキーラが呪文を唱えると、辺りを眩しい程の強い光が包みます。
先を走るお姫様はそれに目が眩んだのか、一瞬よろけてしまいました。
チャンス!とキーラとルーラが走ると、先程よりもお姫様との距離が縮まったようです。


「よし! 一気にいくよ!」


今度はルーラがお姫様の方に大量の矢を撃ちます。
彼女はそれを避けるのに精一杯で、更に走る速度が遅くなってしまい、とうとう二人に追いつかれてしまいました。


「追いついた! さぁお姫様、大人しく牢屋に……」
「……ファイアー!」


しかしキーラが腕を掴んだ瞬間お姫様は炎の呪文を唱え、慌ててキーラが腕を放した隙にまた走って逃げてゆきます。


「……ドレスの裾、邪魔!」


そしてお姫様はなんと驚くことに、足元まであった長さの可愛らしいピンク色のドレスを、走りながら破いてしまいました。

ビリビリに破かれたドレスは今やお姫様の膝丈程のワンピースのようになってしまい、破かれた部分はただの布となり、床に放置されています。
どうやらこのお姫様、本当に(しかも相当の)お転婆姫のようですね。
流石のキーラとルーラもこれにはあっけにとられてしまいました。

しかしその隙にもお姫様はどんどん走って逃げていくので、すぐに二人とも追いかけます。





数十分後。
キーラとルーラはあれからやはりお姫様には追いつけず、追いついても魔法でかわされてしまっていました。
これでは埒が明きません。ルーラはキーラの方を振り向き、キーラにだけ聞こえるように小さな声で言いました。


(キーラ! 少し強めの魔法で一回気絶させちゃおう!)
(えぇっ!? でもローズ様にはなるべく傷は付けるな、って……!)
(だから、少し気絶させるくらいだってば! それにこのまま逃げられちゃったら、それこそローズ様に合わせる顔がないよ!)
(そっ……そうね! じゃあ……あれ、いきましょうか!)
(OK!)


そして互いに目配せをすると、一旦二人共走るのをやめ、その場に止まり、キーラが呪文を呟くと光の弓が現れました。
光が集まってできた弓に、光輝く矢。二人は一緒に弓を構え、一緒にその技の名を叫びながら、矢を放ちます!


「「ホーリーアロー!」」


光の矢はお姫様へと一直線に飛んで行き、追いかけてこなくなったのを不思議に思って振り返りながら走っていたお姫様の胸に、刺さって弾けました。
お姫様はぐったりとその場に倒れこみ、しかし光の矢なので血が出たりはしておらず、ショックで気絶しただけのようです。
それを見たキーラとルーラはガッツポーズをして、彼女の傍へ駆け寄って行きました。

「やった! 成功ね!」
「後は牢屋まで運んで……今度は魔法障壁も張っておいた方がいいね。鉄の扉じゃまた溶かされちゃうだろうし」
「そうね。よし、私こっち持つから、ルーラはそっち持ってちょうだい」
「はいはい」

嬉しそうにしながら気絶したお姫様の片方の肩を持ち上げるキーラ。
そしてルーラがもう片方の肩を持ち上げようとした時、異変は起こりました。



「……っ!?」
「な……何……?」



お姫様の体が、突如光りだしたのです!
キーラが「まさかっ……!?」と信じられない表情で呟くと、なんと気絶していたはずのお姫様が目を開け、そして自信満々にこう言ったのでした。

「小さい頃から魔法の修行をしてるあたしに、あんな魔法なんか効かないんだから!」
「なっ……なんですって!?」
「でも、時間を稼ぐ為にちょっと気絶したふりしてみたの。
この魔法って発動するまで時間かかるし、でも走りながら発動させられる程の力はあたしにはないし」
「!? まさか!?」
「そう、そのまさか! じゃあね、お二人とも! ワープ!」


なんとお姫様は気絶していたフリをして、ワープ魔法の準備をしていたのでした。
そしてワープの魔法が完成し、二人が止めようとした瞬間にはもう遅く、彼女はもうそこにはいませんでした。










「……そっ、そんな……」
「まさか、僕らの魔法が効かないなんて……」


そして後に取り残された二人。二人は自分達の協力魔法が全然効いてなかった事が、ショックのよう。
だって今まで二人は、あの魔法でいくつものピンチを切り抜けてきたんです。
その二人の自慢の魔法が、全然効かなかったんです。二人は初めての事に戸惑い、何より悔しかったのでした。
お姫様にいとも簡単に、魔法を打ち消されてしまった事が。



その悔しさを胸に、もっと強くなろうと決意する二人。
そしてお姫様がワープで飛んだ先は?
ますます運命の歯車とやらは、狂っていってしまいました。





……さて、キーラとルーラが、お姫様を逃がしてしまった事の方が大変だと気付くのは、何秒後でしょうかねぇ。



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