「おはよう、レア」
「おはよう、ございます……ヴェス、タ」
「……うん」


地下にあるせいで朝の光なんか全然差し込まない、暗くて冷たい檻の扉を開けて。
僕は今日も、彼女を迎えに行く。





恋愛契約
〜エピローグ〜


ああ、なんて幸せな朝。愛しい恋人と朝の挨拶をして、名前を呼び合える。
僕の名前を呼び捨てる事に慣れていない彼女のぎこちなさは、僕らの未来が始まったばかりの証。
惜しむらくは、これが朝起きてから一番最初の会話じゃなかったことくらいかな。まぁそこまで贅沢は言わないさ。


いつものように彼女と檻を繋ぐ鎖を外して、その鎖を片手に持つ。
もう片方の手は、彼女に差し出す。
そうすると彼女は恐る恐る僕の手を取って、複雑そうな顔をする。

「……行こうか」
「……はい……」

今日もまた始まる、僕の面倒な一日と彼女の憂鬱な一日。
階段を一段一段上がっていく度、僕らの憂鬱さは増していく。
二人手を繋いで歩いているけど、デートコースとしては最悪だ。
彼女の震える手を握りながら、僕は今日の予定を思い出す。今日もきっと、彼女を泣かせてしまう。



相変わらず僕は、彼女に対しての研究・実験をし続けている。
立場だとか惰性だとかももちろんあるけど、今はそれ以上に、僕自身この環境に満足していた。

もちろんこの研究は、いつか終わる。
彼女の事を一通り調べて、不具合があったら出来るだけ「直して」、実践に投入できる段階になったら、彼女はいよいよ生態兵器デビューだ。
ここの研究所を出て、多分本国の地下にでも飼われるのだろう。

そうしたら僕の役目は終わりで、次の仕事を回される。
今回の経験を生かしてまたこの手の生態兵器の研究に回されるのか、まったく別の研究に回されるのか、今の僕が知るはずがない。


でも一つだけ確かなのは、そうなったら今よりも彼女に会う機会が減るという事。
実戦投入後も色々とデータは取り続けるし、彼女に何か不調が起きたら呼ばれるのは自分だろうけど、今みたいに朝から晩まで会える訳じゃない。
それを考えると、彼女には悪いけれど、この閉鎖された空間で彼女と愛を囁きあうのが、僕にはたまらなく幸せな事に思えた。



……そろそろ階段を上りきってしまう。朝の短いデートはおしまい。
この階段を上り終えたら、僕は彼女の恋人から、彼女の大嫌いな研究者になる。
嫌われるのはもちろん嫌だけど、これが僕と彼女がずっと一緒にいられる方法ならば、僕は喜んでそれを選ぶ。


だけど、その前に、もう一度。



「……愛してるよ、レア」
「……嬉しいです……ヴェスタ……」



――さあ行こう、僕達の居場所へ。




















Fin










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

永遠に完結しないんじゃないかと思ってたこの話ですが、「(薄い)本にする」という目的の元、何とか最後まで完結しました。

話の内容について今さら言い訳しても仕方ないので、いくつか補足説明?をば。
まずこの研究所ですが、ヴェスタが生まれ育った国から、少し離れたところにあります。
研究員は泊まり込みな感じです。たまにヴェスタが本国に経過報告に行ったりします。

そして途中で電子レンジとか超現代的な物が出てきてますが、それはヴェスタの国がすごく科学技術が発展している国だからです。
世界観規模で見ると、どこでも普及してる訳じゃなく、むしろある所の方が珍しい感じです。

とにかくここまでお付き合いくださった方、いらっしゃいましたら、ありがとうございました!



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